ラクスル株式会社は東証マザーズ上場企業ですが、同社がネット印刷事業のスタートアップ企業としてマスに認知されるきっかけとなったラクスル初の自社CM放映のタイミングで、コーポレートブランドのリブランディングにデザインで向き合いました。当時、rakusulという小文字のアルファベットの社名ロゴを使用していた当社は、似た名前の他社サービスと誤認されるといった課題感を持っていました。まずはマスの認知を獲得するためにラクスルという明快なカタカナのロゴタイプを設計し、「ラク」と「スル」の間に引っ掛かりを作ることで他の似た名称のブランドとの誤認されないようにしました。
印刷の会社としてのブランドアイデンティティカラーを選定する上では、あまり迷いはなく、印刷の4色分解のC(シアン)M(マゼンタ)Y(イエロー)K(ブラック)の4色をブランドカラーとして規定し、CM?LP?ECまで一貫した印象が定着していくよう設計したブランドガイドラインを制定しました。また、年々社員数が増加していく中で、インナーの意識を統一するためにも、このアイデンティティを活用していきたいというCEOの意向を受け、約2年間当社と向き合う中で、コーポレートブランドとサービスブランドの両面からラクスルのブランドを設計していきました。オフィス移転のタイミングには、空間設計デザイナーとも協業してオフィス全体のブランドアイデンティティの観点からのディレクションと、新オフィス内のブランディングツールも設計しました。
ラクスル株式会社は、ネット印刷事業で成長を続けるなか、「仕組みを変えれば、世界はもっとよくなる。」という経営理念を軸に、運送業界では「ハコベル」で仕組みを変え、広告業界では「ノバセル」で仕組みを変え、基幹事業に停滞することなく更なる成長を遂げていきました。その中で、元々の「ラクスル」という社名には、当初のサービスとしてのブランドと、複数の事業を傘下に置く企業としてのブランドという、2つの役割を果たす必要が出てきました。ブランドカラーも同様に、全ての傘となるラクスル株式会社としてのブランドアイデンティティのあり方も設計する必要がありました。多彩な事業展開をしていく同社のコーポレートブランドロゴは、シンプルなモノクロのデザインになりました。
ブランドアイデンティティは企業と共に生きていって、はじめて役割を果たすと思います。そのためには、どんなにカッコいいロゴデザインがあったとしても、それを時間をかけて浸透させていく役割を誰かが担う必要があります。外部のデザイナーがそれをずっと担うことはなかなか難しい事ではありますが、デザインが企業の中でどんな役割を果たせるのかを理解していれば、そのガイドラインを敷くことはできます。企業理念や、行動規範、最近定着してきたMVV(Missin/Vision/Value)なども、デザインで機能させていくことができます。ラクスルではCEOの強い意向で、行動規範をRakSul STYLEと定義し、同社で働く社員の評価と直結させることを試みました。上場を果たした今でも、そのSTYLEはラクスル株式会社の中で生きて、進化し続けています。
直近では、弊社は同社のIR資料のフォーマットを設計しました。企業にとって株主に対しての重要なブランディングの機会をデザインで価値付けすることの重要性に気付いてすぐに行動に移すCEOの松本氏の行動からは、いつも学びを得ています。