トータルリブランディングの実践から、 いかに企業は「らしさ」を醸成していくのか。

対談参加者

ファーストライト・キャピタル株式会社

ロゴのアップデートをきっかけにしたリブランディングの相談が、やがて社名変更を含むトータルリブランディングへと発展した事例です。対話を重ねる中で育まれた、思考を共有するパートナーシップが、いかに根源的な価値を見出していくのか。また、組織全体を巻き込みながら作り上げたカルチャーコードが、どのように組織に内外に作用していくのか。感性と感性のセッションを通じながら、思考と表現を拡張したプロセスを紐解きます。

コーポレートロゴのコンセプトビジュアル

内面を掘り下げる対話から
組織一丸で行うブランド再定義へ

齊藤 本日はよろしくお願い致します。では、簡単な事業紹介からお願いします。

岩澤  「FIRSTLIGHT CAPITAL(ファーストライト・キャピタル) 」というベンチャーキャピタルを経営しています。日本の課題である人口減少社会において新産業を生み出すスタートアップ、特に創業して間もない起業家たちに投資を行い、事業成長を支える活動をしています。

ファーストライト・キャピタル株式会社 代表取締役 岩澤脩 氏

齊藤 岩澤さんとの出会いは2019年でした。当時はUB Venturesという屋号で、そのリブランディングを考えていらっしゃって。共通の知り合いを介してお繋ぎいただいたのがきっかけでしたね。最初はロゴのアップデートのご相談だったんですが、会社の方向性を示すフィロソフィーの言語化も含めてお手伝いさせていただきました。私もちょうど独立前だったので、すごく応援してくださって。記憶に残るお仕事でした。

岩澤 2週間に一度の頻度でカフェで打ち合わせしてましたよね。 ああでもない、こうでもないとラリーを続けて。対話が長かった分、動き出すと言語化もCIデザインもパッと決まりました。とても早かった印象があります。

齊藤 最初の仕事のあと、岩澤さんが投資先でクリエイティブに困っている会社があれば私を紹介してくださると仰っていただいて。クリエイティブパートナーという形で、ちょうど独立したタイミングに合わせて名前をホームページに載せていただいて心強かったです。
それから少し間が空いて、2024年に再度ご相談をいただいて。最初のお仕事のときも社名を変えたいという話は挙がっていたのですが、いよいよ全く新しい方向性に舵を切られるということで、屋号を考えるところから含めてのリブランディング業務を引き受けました。

デザインで株式会社 代表取締役 CEO / CreativeDirector 齊藤智法

岩澤 これまで色んなデザイナーとのお付き合いもあったのですが、再び齊藤さんに依頼した決め手は、クリエイティブありきの話から入ってこないところ。時間をかけて私の内面を掘ってくださるんです。根っこの部分が全部共有されている状態で、あたかも私のクローンがいるような一体感もあって。だから同じ思考で方向性を導き出してくれる、そんな大きな信頼がありましたね。

野口 私がジョインしたときから、お二人の関係性の深さは感じていました。両者で意思疎通がうまく取れているんだなと。その分、ブランドの世界観のアイデア出しに入り込みやすかったですね。

デザインで株式会社 取締役 / ArtDirector 野口敏

齊藤 どこから着手すべきかを考えたときに、社名はブランドを体現するものだから、最初に決めておこうということになり、両社でアイデアを持ち寄って会話を重ねるプロセスを採りました。ヒントをいただきながら思考を広げて、引っかかりそうなキーワードを出し合って。回数をもう覚えていないくらい、ミーティングを重ねたんですがなかなか決まらなくて。

角谷 確か7〜8回だったと思います。岩澤さんの会社からは、ほぼ全社員が集まるんですよ。社員同士の意見が強くぶつかることもあって、グッと堪える場面もあったり。

岩澤  実はこのプロジェクトをスタートするときに、ネーミングやデザインは合議制で決まらないと思うから一人で決めたいと齋藤さんに相談したら、「いや、全員でやった方が良い」との返事で。やること自体に意味がある。 社員全員が同じテーブルで、リブランディングのプロジェクトに参加したことが、後々会社のカルチャーを強くするんだという理由を聞いて、なるほどなって。

角谷  プロジェクトを進行するプロデューサー目線でも、それを強く実感しました。みんなで作り上げるプロセスが好きな方、多くないですか?

岩澤  そうですね、みんな自発的に発言をしてましたよね。

角谷 ずっと対話を続けているから決まらなかった。でも、皆さん楽しそうだったんですよ。それが非常に印象的で。

デザインで株式会社 Producer 角谷淳

社名案と共に様々なロゴ案を提案した一例

齊藤 回数を重ねて案が出尽くしたところで、あるパターンが出てくることに気づいて。岩澤さんの思考が整理されてきたんですよね。最後に一通り全部の案に目を通しているときに、ポロっと「First Light」と。ぴったりな造語が降りてきた。あれは決定打でしたね。最後に全部持って行かれちゃって(笑)。

岩澤 最終的には自分に社名が降りてきましたけど(笑)。でもそのプロセスは必要不可欠だったと思うんです。

ルーツをデザインコードに織り込む

岩澤 同時に、ネーミングに対してロゴの見え方も考えていただいていたのですが、どうしても漢字を使いたいとリクエストしまして。漢字は同僚のマネージング・パートナーに選んでもらって。

野口 普通のロゴであれば「FIRSTLIGHT CAPITAL」だけなんですが、サブタイトルとして漢字を添えるのが初めての体験で。「曙光創投(しょこうそうとう)」の言葉を、 ここまで小さくすると視認性が悪いという意見もあったのですが、サブカルチャーを意識した佇まいを重要視されていた。英語と漢字の組み合わせには、岩澤さんが以前駐在していた香港が持つ、“West Meets East”のニュアンスも盛り込まれている。そういったルーツも含めて、これからの会社のランドスケープデザインになっていくんだという表現をされていたのが印象に残っています。

最終決定したロゴのデザイン設計図。ドラマティックな印象を目指し、シネマスコープ比率を採用した

岩澤 ちなみに、このロゴは中華圏の方が見ると日本語っぽく見えるんですって。でも日本人が見ると、なんだか台湾や香港っぽいじゃないですか。要するに、どちらでもないんです。でもアジアのベンチャーキャピタルの会社というのはすぐに分かってもらえる。狙い通りになったと思います。

野口 齊藤も私も広告畑出身なのですが、そのままそっくり世界観をコピーするのはタブーにしていて。クライアントの思想の背景にあるルーツや世界観のニュアンスを抽出して、匂わせる程度に佇まいを探っていきました。岩澤さんが学生の頃に建築を学んでいたこともあって、オフィスの内装デザインもディレクションされていた。オフィスの壁紙やカラーリングなどの感性が現れている事例も参考にしながらブラッシュアップしていきましたね。

デザインカラーコードとオフィスの設計パース

岩澤 そうは言っても結構堅い金融業であるので、ベンチャーキャピタルであるアイデンティティも伝えなきゃいけない。私の好みに振り切りたいという気持ちもありつつ、そうするとデザイン会社に見えてしまう。いかにそのクリエイティブと金融業の堅さのバランスを取るのか。難しかったですね。

齊藤 すり合わせが難しかった分、例えば既存の海外のベンチャーキャピタルの事例を教えていただいて。具体的なヒントをくださっていたので、 言葉だけで戻されるよりかはやりやすかったんじゃないかなと思います。

岩澤 当時の日本のベンチャーキャピタルは伝統的なデザインが多かったんですよ。銀行や証券会社みたいな金融業としての色が強かった。一方で、海外ではデザイン性の高いサイトが出てきていて。 英語だから格好良く見えるけれど、日本語に落とし込んだときに、文字数も多くなるし。 漢字を入れるときにどうバランスを崩さないかっていう。そのおぼろげなイメージを伝えるのがすごく難しかったですね。

Webデザイン案。新社名と新フィロソフィーを軸に、複数のデザイン案を提案した

野口 クリエイティブ視点だと、コンテンツ発信の「INSIGHT」ページも岩澤さんの美意識が出ていますね。Podcastや記事が見れるページなのですが、ジャーナリズムを感じさせる配色やカテゴリーごとにデザインを変えています。

記事サムネイル画像は、動画の切り出しを使用する想定でデザイン

岩澤 弊社は、もともとリサーチやコンテンツを書くことが強みで。「産業分析」や「成長支援」などのカテゴリーごとにサムネイルのフォーマットを制作いただきました。

野口 このサムネイル1個を取り上げても、岩澤さんが考える知性とサブカルチャーの要素が絶妙に入り混じっていて。 佇まいは、建築を学ばれていたのでミニマムなのが好み。 そういう世界観を伝えるツールの一個としてサムネイルを重要にしたいとのお考えでしたね。

交錯する感性、臨界点を超えた挑戦

野口 岩澤さんは、最初からクリエイティブの上流から下流までをイメージできている方なのだと僕は考えていて。 それをどういう形で表現すべきか。当てに行く作業は、辛い時もあるんですけど、とても楽しかったです。 ウェブサイト改修の終盤には、TOPページに静止画を想定していたのですが、動画を置きたいというリクエストが入って。限られた時間と手段の中で対応しなければならず、モーショングラフィックでなんとか作って。

岩澤 ウェブの細かい部分の修正や文言は同僚が担当していて。相当なやり取りをしていた。だけど、動画だけはやらせて欲しいと私がお願いして。

角谷 責任は持つと言い切ってましたもんね。「俺が決める」と仰っていたのを、よく覚えてます。

岩澤 なぜ動画かというと、クリエイティブと金融のバランスを取った結果、思ったより金融に寄ってしまったという印象があって。そして、デザインで株式会社さんがチームとして本当に勝負できてるんだろうかと思うこともあり。 だとしたら、一番目に付くTOP画面が唯一クリエイティブで攻められる空間だなと考えて。時間が限られているけれど、やってみようと。

コンセプトを3つの表現手法違いで提案

齊藤 金融側の思考だけだったら、おそらくこのような発想にはならないと思うんですよね。 デザイン会社と協働することで生まれた考えというか。

岩澤 そうですね。デザインというものを改めて考えると、ベンチャーキャピタルで支援している起業家たちと接している感覚と似た部分がありますね。自分の想像を超えてきた時の感動というか面白さというか。それが野口さんの動画にはあった。100人のビジネスパーソンがいたら、絶対その100人に伝わる説得力のある表現。

野口 起承転結があって説明的な内容の動画の案、いわば当てに行った案は却下。代わりに、コンセプトを抽象化したチャレンジングな提案が通って。まだ見たことのない原石に焦点を当てて伴走して照らし続けることで、その価値がまた新しい色に輝いていく。かなり概念的な映像なんです。 他の企業だと選ばれないと思う。岩澤さんが 「野口さん、これでしょ。これをやりたいでしょ」と仰ってくださって。嬉しかったですね。

岩澤 提案の中で、一番想像がつかないチャレンジはどれかという視点ですね。 野口さんもやったことがないし、どういう仕上がりになるか分からないと仰ってて。 だからチャレンジをしているところを見たかった。だからやってみましょうっていう。 金融に寄せる作業がめちゃくちゃハードだった分、野口さんが一番ワクワクするやつをやろう。その基準で選びました。

野口 ありがとうございます。こんなクライアントさん、本当にいないですよね。本当に温かい目線というか。

岩澤 でもめちゃくちゃ良かったですよね、結果としてね。

ブランド刷新が育むカルチャーの幹

齊藤 リブランディング後に久しぶりに会ったのが今日なのですが、周りの反応はどうでした?

岩澤 まず周りのスタートアップの方たちからは、ずっと私の内面にあった思想やビジョンがようやく表に出たというフィードバックでした。 UB Venturesの時は親会社がいたので、その殻に閉じこもっていたけれど、FIRSTLIGHT CAPITALになって私の中にある価値観で勝負できるようになった。それが伝わるようになったことがひとつ。
二つ目はチーム、そしてカルチャーが強くなりました。私たちは“100年続くベンチャーキャピタル“を掲げてるんですが、本当にその土台ができたという実感が持てて。リブランディング後、キャピタリスト全員が「らしさがある」と周りからよく言われるようになっていて。 私だけじゃなくて他のメンバーも、全く同じ価値観をステークホルダーに体現してるし、同じことを発言していると言われるようになりました。ここから世代交代しても、守られるべき木の幹がより太くなったなと感じています。

齊藤 リブランディングにFIRSTLIGHT CAPITALのメンバー全員が参加した経験を通じて、その風土ができたということですかね。

岩澤 そうですね。 当時入社していなかったメンバーもいるんですけど、結果としてクリエイティブやタグラインに紐付くようなカルチャーにみんな吸い寄せられている印象があります。それは言語的な何かというよりは空気感。文化的なランドスケープデザインが伝播して繋がっているように感じますね。 最初に齊藤さんとお仕事した頃は20億円ほどの運用規模だったのですが、現在は140億になって。2027年には新しいファンドが立ち上がりますし、チームもどんどん拡大するフェーズにあります。

岩澤氏とブランディングチームと共に作成したフィロソフィー

齊藤 来年に向けてまたアップデートしなければですね。ありがたいことに、御社から投資先のスタートアップのリブランディングを依頼されることもあり、彼らからのフィードバックも是非この機会で伺えたらと思います。

岩澤 結果的に、彼らの成長速度を変化させる要因になると考えています。 デザインで株式会社さんに参画していただいたあと、何かしら動きがありますから。 大手から大型調達を行ったり、海外の会社にM&Aされたりとか。創業期から停滞している状態から、リブランディングでガラッと変わっていく。 私たちもそうだったかもしれないですけど、 リブランディングのプロセスに、もしかしたら転換を促す秘密があるのかもしれない。 創業者たちが、齊藤さんたちとの対話を通して、自分たちのアイデンティティやプロダクトの根源的な価値に気づくきっかけになってるのではないかと思います。

齊藤 来年に向けてまたアップデートしなければですね。ありがたいことに、御社から投資先のスタートアップのリブランディングを依頼されることもあり、彼らからのフィードバックも是非この機会で伺えたらと思います。

弊社にご依頼頂いた、投資先のリブランディング企業。 ※2026年5月時点

岩澤 結果的に、彼らの成長速度を変化させる要因になると考えています。 デザインで株式会社さんに参画していただいたあと、何かしら動きがありますから。 大手から大型調達を行ったり、海外の会社にM&Aされたりとか。創業期から停滞している状態から、リブランディングでガラッと変わっていく。 私たちもそうだったかもしれないですけど、 リブランディングのプロセスに、もしかしたら転換を促す秘密があるのかもしれない。 創業者たちが、齊藤さんたちとの対話を通して、自分たちのアイデンティティやプロダクトの根源的な価値に気づくきっかけになってるのではないかと思います。

齊藤 ものすごくありがたいですね。我々もやりがいがあるというか、やる意味を再認識しました。FIRSTLIGHT CAPITALさんとこういう関係性を作らせていただいていると、自分たちの視野が狭くならないきっかけをたくさん頂いていると思っていて。今後伸びていく市場に対する新たな事業やテクノロジーのお仕事も多いので、感度が鈍らないというか。日々学ぶことがあってプラスになっています。

岩澤 デザインで株式会社さんは、私たちにとって、事業の変化のポイントに立ち会っていただくペースメーカーの役割だと考えています。自分たちが想像しえない未来を作っていくために、またその変化のきっかけを作っていただき、立ち会っていただきたいと思っています。 対話とデザインを通して成長のスピードを上げていくというところで、引き続き連携できればと思います。

齊藤 私たちも得意な領域や強みだけを伸ばしていくだけじゃなく、さまざまな課題に応えられるようになりたいという気持ちが常々あるので、期待値みたいなものがあれば教えてください。

岩澤 もはやベンチャーキャピタルとスタートアップに提供している価値が一緒ではないかと思っていて。 クリエイティブを作るという対話を通して、実はクライアントの根っこにある部分を一番理解されているし、事業理解もされていくじゃないですか。経営者の参謀的になっていくことが、今後求められてくるんじゃないかなと思っています。 対話力とかデザインクリエイティブの力を引き上げていく、変化を出していくことを武器にしながら、社外取締役的な役割を担うのは業界にとってもインパクトがあることじゃないですか。

齊藤 そういう事例がなくはないと思うんです。デザインで株式会社が、デザインで何を提供できると社会や業界に意味があるのか。改めて考えてみたいと思います。有意義な時間になりました、ありがとうございました。

岩澤 ありがとうございました。

Project Team

DESIGND:

  • Tomonori Saito

    Creative Direction / Brand Design / Identity Design

  • Satoshi Noguchi

    Creative Direction / Art Direction / Brand Design / Identity Design / Graphic Design / Logo Design / Web Design / Sign Design / Brand Movie / Item Design

  • Hayato Fujii

    Graphic Design / Web Design / Item Design

  • Ryusei Sakiyama

    Graphic Design

  • Atsushi Kakuya

    Produce

Design Partner

  • EDP graphic works

    Motion Graphic Design

  • Daisuke Koike

    Photography

  • Akio Kawabe

    Retouch

  • Kazuya Okamoto

    Web Coding